【事例あり】英語ができない生徒が挑戦できる海外研修〜新しい研修づくりのヒント〜
「海外研修やりたいけど、うちの生徒は英語ができないから…」
多くの学校でよく耳にする声です。修学旅行や海外研修の企画を高校・中学校でご一緒しながら、この悩みをずっと聞いてきました。
しかし、ここ数年の実践を通じて確信を持ってお伝えできることがあります。それは、海外研修の成功は、決して英語力だけで決まるわけではないということです。
「英語ができない」は海外研修を諦める理由にならない
「うちの生徒たちは英語ができないから、海外研修は難しいかもしれません…」
この言葉を何度聞いてきたことでしょう。確かに、海外研修となれば英語でのコミュニケーションは避けられません。
しかし、ここで重要な問いかけをしたいと思います。私たちは何のために生徒たちを海外へ連れていくのでしょうか?
結論から申し上げると、英語力は海外研修の成否を分ける決定的な要因ではありません。むしろ、英語が苦手だからこそ得られる学びがあると、弊社は確信しています。
なぜ英語力を気にしすぎる必要がないのか
実は多くの教育者が、英語力を過度に重視してしまう傾向にあります。
しかし、考えてみてください。
海外で働く日本人の方々は、必ずしも流暢な英語を話すわけではありません。それでも、世界中で活躍されています。
なぜでしょうか。それは、言語はコミュニケーションの一つの手段に過ぎないからです。
実際、私たちの研修に参加した生徒の中にも、英検2級以上を持つ生徒もいれば、英語の成績が振るわない生徒もいます。
しかし、研修後の成長度を見ると、必ずしも英語力の高い生徒の方が大きく成長するわけではないのです。
通訳に頼らないからこそ生まれる学びとは
「では、通訳をつければいいのではないか」という声も聞こえてきそうです。
しかし、私たちは敢えて通訳を最小限に抑えています。必要最低限の説明以外は、生徒たち自身でコミュニケーションを取ることを推奨しています。
なぜかと言うと、「わからない」という状況に直面したときこそ、最大の学びが生まれるからです。
言葉が通じない。でも、相手に何かを伝えたい。
その切実な状況の中で、生徒たちは創意工夫を始めます。身振り手振りを使ったり、スマートフォンの翻訳機能を駆使したり、とにかく必死になって伝えようとします。
この「必死さ」こそが、実は最も重要な学びの源泉なのです。
海外研修前によく聞く不安と、その後の変化
実際の声をご紹介しましょう。ある生徒は海外研修前、こう話していました。
「英語なんて全然できないし、現地で何も話せないと思います。きっと迷惑をかけるだけだと思います」
しかし、この生徒は研修後、驚くべき変化を見せました。
「確かに最初は全然話せなくて辛かったです。でも、相手に伝えたい気持ちが強くなって、知っている単語を必死で並べたり、ジェスチャーを使ったり。気づいたら、なんとか会話ができるようになっていました」
この変化は、海外研修では決して特別なケースではありません。むしろ、典型的な例と言えます。
なぜなら、「英語ができない」という壁があるからこそ、それを乗り越えようとする強い意志が生まれ、その過程で生徒たちは大きく成長するからです。
また、「英語ができない」と悩む生徒ほど、非言語コミュニケーションの重要性に気づきます。
アイコンタクトの取り方、表情の読み取り方、相手の気持ちを察する力。これらは、グローバル社会を生きる上で極めて重要なスキルです。
では、具体的にどのように海外研修を設計すれば、英語ができない悩みを持つ生徒でも十分な学びが得られるのでしょうか。
英語ができなくても成功する海外研修の作り方
海外研修を成功に導くためには、入念な準備と適切な環境設定が不可欠です。
ここでは、英語ができない生徒でも充実した学びを得られる研修の具体的な作り方をご紹介します。
海外研修の事前準備で克服できること
まず重要なのは、海外研修前の心理的ハードルを下げることです。具体的には以下の3つのポイントを押さえています。
- 「英語ができなくても大丈夫」という安心感の醸成
- 過去の参加者の体験談を共有
- 英語以外のコミュニケーション方法の実践練習
- 失敗を恐れない雰囲気づくり
- 海外研修に最低限必要な表現の習得
- 挨拶や感謝の言葉
- 困ったときの基本フレーズ
- 自己紹介の練習
- 異文化コミュニケーションの基礎理解
- 非言語コミュニケーションの重要性
- 文化による解釈の違い
- 現地の文化やマナーの基礎知識
特に注目したいのは、英語の練習に時間を費やしすぎないことです。むしろ、「間違えても大丈夫」「完璧な英語を話す必要はない」というメッセージを繰り返し伝えることの方が重要です。
現地での効果的なサポート方法
現地では、以下のような段階的なアプローチを取ることで、生徒の不安を軽減しながら、徐々に主体的なコミュニケーションを促していきます。
第1段階:見守りと必要最小限のサポート
- 全体説明は適度な通訳を交える
- 緊急時の対応方法を明確にする
- 安全な失敗ができる環境を整える
第2段階:自主性を引き出す仕掛け
- グループワークでの役割分担
- 現地の人々との交流機会の設定
- 翻訳ツールの効果的な活用方法の指導
第3段階:挑戦の機会提供
- 個人やグループでのミッション設定
- 現地でのフィールドワーク
- 成果発表の場の設定
ここで重要なのは、教員が必要以上に介入しないことです。
生徒が英語ができずに困っているからといって、すぐに通訳をしたり、答えを与えたりするのは避けるべきです。
むしろ、生徒自身が試行錯誤する時間を十分に確保することで、より深い学びが生まれます。
生徒同士の学び合いを促す仕組み
海外研修を成功に導くもう一つの重要な要素が、生徒同士の協力関係の構築です。具体的には以下のような仕組みを取り入れています。
多様な能力を持つメンバーでのグループ編成
- 英語が得意な生徒と苦手な生徒の組み合わせ
- 異なる学年や専攻の混合
- それぞれの得意分野を活かせる役割分担
グループ内での相互支援の促進
- 困ったときの助け合いルールの設定
- 定期的な振り返りミーティングの実施
- 成功体験の共有機会の創出
競争ではなく協働を重視した課題設定
- グループ全体で達成する目標の設定
- メンバー全員が参加必須の活動
- 相互評価の機会提供
このように、個人の英語力の差を問題にするのではなく、むしろそれを活かしたグループダイナミクスを生み出すことで、より豊かな学びの場を創出することができます。
次章では、実際に英語が苦手だった生徒たちが、どのように成長を遂げたのか、具体的な事例をご紹介していきます。
英語が苦手な生徒たちの挑戦事例
「最初の3日間は本当に辛かったです」
これは、昨年の海外研修に参加したある生徒の言葉です。
中学時代から英語が大の苦手で、高校でも定期テストは赤点ギリギリ。そんな彼女が、なぜ2週間の海外研修に参加しようと思ったのでしょうか。
「正直、英語力に自信はなかったんです。でも、インドネシアの環境問題について、現地の人から直接話を聞いてみたかった。それだけでした」
純粋な興味と関心が、彼女を動かす原動力となりました。
最初は全く話せなかった生徒の成長記録
研修がスタートして最初の数日間、彼女はほとんど口を開きませんでした。
現地の高校生との交流の際も、うつむいたまま。しかし、4日目の午後、大きな転機が訪れます。
環境問題について話し合うグループワークの最中、現地の生徒が「日本ではどうなの?」と尋ねてきたのです。その瞬間、彼女の中で何かが変わりました。「どうしても伝えたい」という強い思いが、言葉の壁を超えていったのです。
スマートフォンの翻訳機能を使い、時には絵を描き、身振り手振りを交えながら、必死に自分の考えを伝えようとしました。
拙い英語でも、相手は一生懸命理解しようとしてくれました。
パニックを乗り越えた瞬間の変化
「最初は本当に怖くて、パニックになりそうでした。でも、相手が笑顔で頷いてくれて。その瞬間、『通じた!』って。それからは不思議と怖くなくなりました」
この体験を境に、彼女の態度は大きく変わりました。完璧な英語を話すことへのプレッシャーから解放され、むしろ積極的にコミュニケーションを取ろうとするようになったのです。
ある時は、インドネシアの伝統的な織物について知りたくて、織物工房を訪問。
片言の英語と、スケッチブックに描いた絵を使って、製作工程について熱心に質問していました。驚いたことに、英語ができない分、より注意深く相手の表情や仕草を観察するようになっていったのです。
海外研修終了後に見られた意識と行動の変容
「英語ができない」という劣等感は、「なんとかなる」という自信に変わっていきました。
帰国後、彼女は英語の授業に対する姿勢も変化させています。
「文法や単語テストの点数は、正直まだまだです。でも、それは気にならなくなりました。相手に伝えたい気持ちがあれば、必ず方法は見つかる。それを体験できただけで、研修に参加した意味があったと思います」
さらに興味深いのは、彼女が後輩たちに向けて、こんなメッセージを残してくれたことです。
「英語が苦手なことは、海外に行かない理由にはならない。むしろ、苦手だからこそ得られるものがある。それに気づくためにも、ぜひ挑戦してほしい」
この言葉には、深い説得力があります。なぜなら、これは机上の理論ではなく、実際の体験から導き出された確信だからです。
このように英語力に頼らない海外研修で、具体的にどのような力が育っていくのか、詳しく見ていきたいと思います。
海外研修で育つ、英語以外の大切な力
「海外研修の本質は、実は英語力の向上ではありません」
10年以上、海外研修を担当してきた弊社の実感です。
確かに、海外研修を通じて英語力が向上する生徒もいます。しかし、より重要なのは、英語ができないという壁に直面することで育まれる、より本質的な力です。
異文化コミュニケーション力の向上
マレーシアでの研修中のことです。
英語が苦手な生徒たちが、現地の高校生と一緒に環境保護プロジェクトに取り組んでいました。最初は言葉が通じず、苦労していた彼らですが、次第に興味深い変化が現れ始めました。
「相手の表情をよく見るようになりました」と、ある生徒は振り返ります。「英語ができないからこそ、表情や身振り手振りに敏感になる。むしろ、心の距離は近くなった気がします」
これは、異文化コミュニケーションにおける重要な気づきです。
英語ができないからこそ、人は相手をより深く理解しようと努力します。アイコンタクトの取り方、表情の読み取り、場の空気を感じ取る力。これらは、グローバル社会で必要とされる本質的なコミュニケーション能力です。
問題解決力とレジリエンスの醸成
「わからない」という状況に直面したとき、人はどう行動するのか。これは、実は将来の仕事や人生において極めて重要な学びとなります。
インドネシアでの市場調査中、ある生徒グループが困難な状況に陥りました。現地の人々に質問をしたいのに、言葉が通じない。しかし、彼らは諦めませんでした。スマートフォンで写真を見せたり、身振り手振りを交えたり、様々な方法を試行錯誤しました。
この経験は、問題解決力の育成につながります。「答えのない状況」で、自分なりの解決策を見出していく。この能力は、変化の激しい現代社会において、極めて重要なスキルとなっています。
グローバルマインドの形成
海外研修における最も重要な変化は、生徒たちの心の中に芽生える「グローバルマインド」です。
「英語ができなくても、世界とつながることはできる」
「違いを楽しみながら、共に何かを作り上げることができる」
「自分の可能性は、言語の壁で制限されるものではない」
これらの気づきは、生徒たちの将来の選択肢を大きく広げることになります。
実際、海外研修後のアンケートでは、約7割の生徒が「海外で働くことにも挑戦してみたい」と回答しています。
これは、海外研修前の2割から大きく増加した数字です。
特筆すべきは、この変化が英語の得意・不得意に関係なく見られることです。
むしろ、英語ができないという苦手意識を持っていた生徒の方が、より大きな意識変革を経験する傾向にあります。
なぜなら、彼らは「英語ができない」という思い込みを、実際の経験を通じて覆すことができたからです。
ここでご紹介した力は、いずれも現代社会で強く求められているものです。英語力だけでなく、これらの本質的な力を育むことこそ、海外研修の真の価値だと私は考えています。
では、これらの学びを最大化するための、具体的な研修運営のポイントをご紹介します。
実践的な海外研修運営のポイント
教育者として最も大切なのは、生徒の可能性を信じることです。特に英語が苦手な生徒たちは、自分自身の殻に閉じこもりがちです。この殻を少しずつ、でも確実に開いていくための具体的なアプローチをお伝えします。
「分かりたい」気持ちを引き出す海外研修での場面設定
海外研修を成功に導く鍵は、生徒たちの内発的な動機づけにあります。ある学校では、現地の同世代との交流の前に、こんな問いかけをしています。
「相手に何を聞いてみたい?何を伝えたい?」
このシンプルな問いが、生徒たちの意識を大きく変えます。
「英語で話さなければ」というプレッシャーから、「知りたい」「伝えたい」という純粋な気持ちへ。この気持ちの転換が、コミュニケーションの質を変えていきます。
実際の例を挙げましょう。
環境問題に関心のある生徒が、インドネシアのごみ問題について現地高校生と議論する場面。英語は拙かったものの、写真や図を使い、時には演技も交えながら、熱心に意見交換を行いました。言葉の壁を感じさせないほどの熱量がそこにはありました。
英語ができなくてもサポートする側の心構え
教員の役割として最も重要なのは、「待つ」ことです。生徒が困っているからといって、すぐに通訳をしたり助け舟を出したりするのは避けるべきです。
むしろ、生徒自身が試行錯誤する時間を十分に確保することで、より深い学びが生まれます。
ただし、この「待つ」姿勢は、放任とは異なります。生徒の表情や様子を細かく観察し、本当に必要なときには適切なサポートを提供する。この絶妙なバランスが、教員には求められます。
失敗を恐れない環境づくり
「間違えてもいい」「完璧でなくていい」というメッセージを、言葉だけでなく、環境全体で示すことが重要です。
例えば、毎日の振り返りの時間では、その日の「失敗談」を笑顔で共有します。
「今日は全然通じなくて困ったけど、でも最後はジェスチャーで何とか伝わった」といった体験を共有することで、失敗が学びのプロセスの一部であることを実感してもらいます。
また、グループでの活動を多く取り入れることで、個人のプレッシャーを軽減することもできます。得意な生徒が苦手な生徒をサポートし、互いの強みを活かし合う関係性が自然と生まれてきます。
現地パートナーとの関係づくり
海外研修を実りあるものにするためには、現地のパートナーの理解と協力が不可欠です。特に、以下の点について事前に十分な擦り合わせを行うことをお勧めします。
- 生徒の英語レベルについての正直な共有
- コミュニケーションにおける工夫の依頼
- 文化的な配慮が必要な点の確認
実は、多くの現地パートナーが、日本の生徒たちの真摯な姿勢に感銘を受けています。「英語が話せなくても、一生懸命に理解しようとする態度に感動した」という声をよく耳にします。
もう一度強調したいのは、海外研修は決して英語力だけを伸ばすためのものではないということです。
むしろ、言葉の壁があるからこそ生まれる創意工夫、相手を理解しようとする真摯な態度、そして何より「自分にもできる」という自信。
これらの学びこそが、生徒たちの将来を豊かにする本質的な財産となるのです。
私たち教育者に求められているのは、この学びの機会を、英語が苦手という理由で諦めさせないこと。そして、生徒一人ひとりの可能性を信じ、適切なサポートを提供しながら、彼らの挑戦を支え続けることではないでしょうか。
まとめ:海外研修で本当に大切なこととは?
これまで、英語ができなくても海外研修が実施できる理由や方法について詳しく見てきました。最後に、私たちが10年以上海外研修を企画してきた経験から、海外研修で最も大切にしたい3つのことをお伝えしたいと思います。
生徒の「今」ではなく「これから」を見る
「英語ができない」という現状は、その生徒の可能性の限界を示すものではありません。むしろ、それは新しい成長のスタートラインになり得ます。
先日、ある卒業生から連絡がありました。5年前の研修では英語に強い苦手意識があり、現地でも精一杯の思いをしていた生徒です。しかし今、アジアを飛び回る商社マンとして活躍しているといいます。
「あの時の経験が、自分の可能性を広げてくれました。今でも英語は完璧ではありませんが、それは問題ではないと気づけたことが大きかったです」
この言葉は、私たち教育者に重要なメッセージを投げかけています。生徒の「今」の姿だけでなく、その先にある可能性を見据えることの大切さを教えてくれているのです。
「できない」を「やってみよう」に変える環境
教育者の役割は、生徒の「できない」という思い込みを、「やってみよう」という気持ちに転換させることです。
そのためには、小さな成功体験の積み重ねが重要です。
完璧な英語ができることを目指すのではなく、ジェスチャーと単語を組み合わせて思いが伝わった瞬間。翻訳アプリを駆使して現地の人と笑顔で会話できた経験。
そういった小さな成功体験の一つ一つが、生徒の自信となり、次の挑戦への原動力となっていきます。
異文化体験がもたらす本質的な学び
最後に強調したいのが、海外研修の本質は「異文化体験」にあるということです。
言語の壁があるからこそ、生徒たちは文化の違いにより敏感になり、深い気づきを得ることができます。
異なる価値観や考え方に触れ、時には戸惑いながらも、相手を理解しようと努力する。その過程で培われる柔軟性や寛容性は、グローバル社会を生きていく上で何物にも代えがたい財産となります。
これからの時代、ますます世界との繋がりは深まっていきます。
その中で、完璧な英語力を持っているかどうかは、実はそれほど重要ではありません。むしろ、違いを受け入れ、積極的にコミュニケーションを取ろうとする姿勢。
そして、失敗を恐れず、新しいことに挑戦し続ける態度。これらこそが、真に求められる力なのです。
だからこそ、英語ができないという苦手意識のある生徒にこそ、海外研修の機会を提供したい。
その経験が、彼らの人生の可能性を大きく広げる一歩となることを、私は確信しています。
最後に、これから海外研修の実施を検討される先生方へ。
どうか、生徒の英語力だけで判断せず、挑戦の機会を提供することを考えてみてください。その選択が、生徒たちの人生に思いがけない価値をもたらすかもしれません。
そして、その過程で迷いや困難に直面したときは、このガイドが少しでもお役に立てれば幸いです。共に、生徒たちの可能性を広げていきましょう。
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