教育委員会の実例から学ぶ新しいグローバル人材育成-中学生8名をフィンランドに派遣

2024年8月に、市として初となる海外派遣プログラムに中学生8名を派遣した福岡県直方(のおがた)市の職員の皆様にお話を伺いました。

自治体による海外プログラムの導入は先進的な取り組みとして注目され、2024年11月に弊社と開催したウェビナーでも多くの方にご視聴いただきました。

本記事は、ウェビナーの内容の一部をお伝えします。

ウエビナー動画はこちらからご視聴ください

お話いただいた直方市職員の皆さま

熊井 康之 様(直方市教育部長)
長田 正志 様(直方市教育委員会 文化・スポーツ推進課長)
髙須 琴巳 様(直方市教育委員会 文化・スポーツ推進課社会教育係主任)

ファシリテーター:菊地恵理子(タイガーモブ 株式会社 CEO )

直方市の中学生が参加したタイガーモブのプログラムはこちら!

目次

直方市の中学生8名を対象に、フィンランドでの研修を実施

このプログラムでは、フライト代や食費を含む全費用を直方市が負担し、アントレプレナーシップ教育に特化したプログラムを展開しました。

3名の職員(うち2名は教員)が同行し、全国から公募で集まった20名含む総勢31名の参加者とともにプログラムを進めました。

プログラムでは教育と自然をテーマに、フィンランドの教育現場や大自然あふれる国立公園を直接体験。Learning by Doing(実践による学び)の考えのもと、実際に授業を行ったり、フィンランドの街中でのインタビュー活動を実施しました。また、国立公園での自然体験や世界一イノベーティブと称される図書館の訪問など、現地パートナーである宮下あやかさんと協力しながら多彩なプログラムを展開しました。

直方市の職員の皆さんは、予算確保から保護者への説明、参加者の選考など、海外派遣プログラムの立ち上げに尽力されました。

また、教育部長である熊井様は自らも生徒たちと一緒にフィンランドプログラムに参加し、ご自身の目で生徒たちの変化の様子をご覧になりました。

ここからは、ウェビナーでの実際の声をお届けします。

海外派遣プログラムの企画から実施までの道のり

(菊地)直方市は今回、どのような背景でプログラムを実施したのでしょうか?

(高須さま)直方市の教育理念「未来を拓く~新しい時代をたくましく生き抜く人づくり~」をもとに、市独自のプログラムとして企画しました。VUCAの時代において、子供たちに本当に必要な力を育むことを目指しています。

まず第一の目標として、子供たちが世界に興味関心を広げ、海外の文化や自然に触れることで感性を育み、未来の選択肢を増やすことを掲げました。次に、アントレプレナーシップと生きる力を育み、自分で機会を見出せる次世代リーダーを輩出することを目指しています。

人口5.5万人という比較的小規模な直方市では、国際交流が日常的にある環境ではありません。豊かな自然の中で伸び伸びと育つ一方で、都市部と比べて情報量や刺激が少ないという課題があり、それを補完することも目的の一つでした。

(菊地)多くの苦労もあったかと思いますが、どのような流れで実現したのでしょうか?

(高須さま)2024年夏の実施に向けて、2023年5月末から企画を開始し、何度も企画書を書き直しました。当初は海外派遣事業という大枠のみが決まっており、テーマは推敲を重ねました。フィンランドでのアントレプレナーシップ研修が最終的な形として決定したのは、およそ半年後のことでした。

(菊地)プログラム実施の承認をどのように得られたのでしょうか?

(高須さま)フィンランドを訪問先として選定したのは11月頃で、これはイノベーション人材育成をテーマにした事業部署との連携から、アントレプレナーシップというキーワードにたどり着いたことがきっかけでした。

経営部門からは「再来年度の実施に延期してはどうか」と提案されたこともありましたが、粘り強く提案を続けました。

参加対象と実施までの課題

アアルト大学では、キャンパスツアーや大学生とのモルック大会、座談会を実施。

(菊地)今回は中学生8名が参加しましたが、なぜ中学生が対象だったのでしょうか?

(高須さま)当初は中高生を対象にする予定でしたが、市町村振興協会の補助金が中学生対象であったことや、予算の制約もあり、中学生に限定することになりました。補助金の獲得と企画は同時進行で進められ、「補助金が取れなかったらどうするのか」という質問に対しては、「必ず取ります!」という強い意志で対応しました。

ありがたいことに、50名を超える応募となり、直方市の中学生全体からしても想像よりもかなり高い比率でした。

(菊地)このお話を聞いているだけでも職員のみなさんの意気込みが感じられ、嬉しい気持ちです。他にはどのような点に苦労されましたか?

(長田さま)最も苦労したのはテーマの決定です。単なる修学旅行にはしたくないという思いから、「逞しく生きていく力」「アントレプレナーシップ」という要素に焦点を当てました。それからも大学の国際学科に相談したり、旅行会社にも相談し、訪問先もテーマも何回も変えました。

また、議会説明では特にウクライナ情勢を踏まえた安全面での懸念について、詳細な説明が求められました。

これに対して、「子供たちにアントレプレナーシップを学ばせたい」という強い意志を伝えながら、外務省の情報に基づく適切な判断を行うこと、必要に応じた中止判断の可能性を示すこと、さらにタイガーモブの安全保障専門業者との連携について説明することで、最終的に議員の方々からも好意的な支持を得ることができました。

プログラムの実施と成果

フィンランドの幸福度や教育などそれぞれが知りたいことを実際にフィンランド人へインタビュー!

(菊地)熊井さまは実際に参加していただきましたが、参加してみての感想、参加者の変化はいかがでしたか?

(熊井さま)参加者たちの変化は顕著で、初日と帰国時では表情が大きく変化していました。最終日には自分の言葉で堂々と発表できるまでに成長しました。特に印象的だったのは、当初おどおどしていた子供たちが、日を追うごとに自信に満ちた表情へと変化していったことです。

(長田さま)親御さんも、当初の不安から前向きな見守りの姿勢へと変化していきました。そこですごかったのは、タイガーモブの菊地さんが親御さんに対して「見守りましょうよ」とメッセージを出したことです。LINEの中でのこのメッセージによって、親御さんのスタンスがガラッと変わったのです。タイガーモブからの丁寧なコミュニケーションが、この変化を後押ししたと考えています。

(菊地)最終日は「今日は何も見ずに自分の言葉で話そうと思います」と自分の言葉で発表していたのが印象的でした。現地ではなぜそれほど大きな変化が見られたのでしょうか?

(高須さま)従来の海外派遣では名所を巡る異文化体験や英語学習が中心となります。一方で、今回のプログラムでは大きく異なるアプローチを取りました。

例えば、英語が完璧に話せなくても、子供たちを街中に放って100人へのインタビューに挑戦させたり、現地の学校で突然の日本文化についての授業を行うなど、かなり挑戦的な内容でした。特に学校訪問での授業については、「準備は渡航前にやってきてください」という超実践型の課題に、子供たちも驚きながらも真剣に取り組んでいました。

今後の展望

教育先進国フィンランドの授業を視察するだけでなく、Leaning by Doing(実践による学び)の考えのもと日本文化を伝える授業を企画・実施する。

(菊地)今後の計画についてお聞かせください。

(熊井さま)今年度の成功を踏まえ、今後は高校生も含めた参加者層の拡大を検討しています。また、参加者同士の交流や活躍の場を創出するとともに、初等教育からのアントレプレナーシップ教育の導入も進めていきたいと考えています。

市長からも単発でも終わるような事業にしてほしくないと言われているので、来年度以降も継続して実施していきたいと考えています。

(高須さま)資金面では、ふるさと納税の基金も活用しており、多くの方々の支援によって成り立っている事業です。子供たちの未来のために、ふるさと納税して頂いた方々のお心遣いで成り立っていることに感謝申し上げたいです。

今後も継続的な実施を目指し、さらなる発展を図っていきたいと考えています。

(菊地)ありがとうございます!色々な方々のご厚意と苦労があってこそ貴重な機会を届けることができたと改めて実感しました。大変な道のりにも関わらずここまで粘り強く実現に向けて動いてくださりありがとうございます!

最後に:自治体の皆様へのメッセージ

世界1イノベーティブな図書館Oodiにて一人ずつ、何を学び、今後にどう活かしていくのか?の発表を行った。

(高須さま)「直方市から世界へ」というコンセプトのもと、私たちは本事業を始めました。実際に子供たちが様々な困難を乗り越え、成長していく姿を見て、本当にやってよかったと実感しています。特に、行政が主体となって実施する意義として、応募要件のハードルを可能な限り下げることで、子どもたちが置かれた環境に関わらず、積極的に応募してくれたという点に大きな手応えを感じています。

(長田さま)アントレプレナーシップとは、単なる起業家精神ではなく、『生き抜く力』そのものと捉えることができます。この観点から見ると、本プログラムは直方市自身のアントレプレナーシップを体現する事業だったと言えます。自治体にとって最も重要な要素は人です。子供たちの成長を支援することは、直方市が20年、30年先まで生き抜いていくための投資でもあります。私たちは、子供たちと共に成長する自治体でありたいと考えています。

(熊井さま)新しいことへのチャレンジという思いを具現化したのが、この事業でした。『考えるより先にやってみる』というアントレプレナー精神こそ、私たちが大切にしたい価値観です。

(菊地)今までも直方市のみなさんが好きでしたが、今日お話をお伺い出来てさらに直方市ファンになりました!!実体験に基づく貴重なお話を本当にありがとうございました!

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この記事を書いた人

全国の中学・高校に越境探究プログラム『VISIONs』を提供。
導入実績107校以上、参加生徒5,000人、全世界47カ国を舞台に探究学習プログラムを企画・運営。学校オリジナルの探究学習に興味がある方はお問合せください。

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