5校合同でバリ島・インドで海外研修を実施-探究型グローバル研修の事例紹介
世界に飛び出し、自分が変わる—5校合同で中高生が挑んだ探究型グローバル研修の軌跡
インドのスラムで貧困や経済格差の現実に触れ、バリ島の水・ゴミ・農業などの環境問題に向き合う。
2024年8月、関東・関西の中学校・高等学校が5校合同で探究型グローバル研修を実施しました。中高生が現地のリアルな社会課題の最前線に飛び込んで、フィールドワークやインタビューを重ねる中で、課題を自分ごととして捉え、プロジェクト活動の実践を行いました。
今回は、実際にプログラムに同行した先生方の声を通して、研修の裏側と生徒たちの成長の軌跡をお届けします。
<実施プログラム概要>
今回はインドとバリの2つのコースで実施をしました。
参加生徒数 | インドコース35名 バリコース42名 |
募集形式 | 希望制 |
渡航期間 | インドコース13日間 バリコース12日間 |
渡航先の国 | インド(デリー、グルガオン) インドネシア(バリ島) |
インドコースでは貧困・社会課題に向き合うことをテーマに、現地のスラムや学校、支援をするNGOを訪問しながら、社会課題の持つ複雑さや根深さに向き合いました。
また、バリコースではバリの水問題・ゴミ問題・農業問題などの環境課題をテーマとしながら、参加者それぞれが自分の才能・強みを見つける探究を行いました。
今回は、実際に現地に同行した先生お二人にお話を伺います!
先生方は、プログラムの企画段階から深く関わっていただいているだけでなく、野田先生はバリコース、井上先生はインドコースに実際の現地研修にも参加していただいた体験も踏まえてお話してくださっています。
企画立案から実施までの一連のプロセスについて、お二人の貴重な経験とご意見をお伺いしました。
スピーカー
野田 守 様(成城学園中学校高等学校)
井上 忍武 様(多摩大学目黒中学校・高等学校)
モデレーター:上原(タイガーモブ株式会社)
本記事は、ウェビナーの内容の一部をお伝えします。
タイガーモブの海外研修を導入した背景
(上原)各学校では様々な目的で海外研修の導入を検討されると思いますが、どのような狙いや位置付けでタイガーモブの海外研修プログラムを導入されたのでしょうか?
(野田先生)タイガーモブさんを導入するまえは、語学研修が単なる観光旅行になっているのではないか、という問題意識や、英語圏以外の国との交流機会を持たせたいという思いもあり、新しい可能性を模索していたのです。
また、高校生約270名を複数グループに分けて実施する研修旅行を、より探究的な活動にしたいという問題意識も抱えていました。
そんなタイミングで、校長からタイガーモブさんの海外研修の話があり、参加者として昨年8月にインドネシア・バリ島のプログラムを体験しました。そこで初めて、タイガーモブさんの研修の設計や、生徒のチャレンジに上限を設けない姿勢に大きな感銘を受けました。
学校に戻ってすぐにプレゼンを行い、来年度からの導入を提案。プログラムの素晴らしさが評価され、スムーズに導入が決定し、今年度初めての実施に至りました。
語学研修とは異なるタイガーモブの海外研修の特徴
(上原)ありがとうございます。語学研修とは異なる目的について、具体的にどのような期待を持たれていたのか、もう少し詳しく伺えますでしょうか。
(野田先生)現在の授業では、教師が授業の大半を講義する形式が多く、生徒が主体的に考え、議論し、発表するような活動が圧倒的に少ないという課題意識がありました。
一方、タイガーモブさんのバリでのプログラムでは、ファシリテーターによる10-15分の導入の後、グループでの話し合い、現地でのインタビュー活動、そして成果のまとめと発表という、充実したプロジェクトベースの学習が実践されていました。
特に印象的だったのは、問題解決に向けて真剣に取り組む過程での学びの深さと、チャレンジに上限がないという点です。このプログラムは、学習意欲の高い生徒から、ぼんやりと海外に興味がある生徒まで、様々なタイプの生徒に適応できる可能性を感じました。
これは学校では十分に実現できていない学習形態であり、だからこそ導入の価値があると思います。
(上原)タイガーモブのプログラムは、企業の実際のプロジェクトの一部や、リアルな社会を舞台に取り組むという特徴がありますね。井上先生はいかがでしょうか?
(井上先生)当初は、従来の語学研修とは異なるユニークな企画として注目しました。
特に印象的だったのは、10日間という期間の使い方です。初めて聞いたときは「10日間は長いな‥」と思ったのですが、前半5日間で現地を見て回り、後半5日間は生徒が自ら考え、行動し、発表するという構成に大きな可能性を感じました。
プログラム導入の背景には、本校が位置する目黒という恵まれた環境ゆえの課題もありました。地域に目に見える課題が少ない中で行う探究学習は、SDGsなどのテーマも含めて、どうしても表面的な議論で終わってしまう傾向があります。
しかし、このプログラムでは、現地で実際の問題に直面しながら、その中で何ができるかを考え、実践的な解決策を見出すことができます。これは、より深い探究学習を望む生徒たちの活躍の場になるとの期待がありました。
また、学校としても国際教育に力を入れたいという方針があり、その具体的な取り組みの一つとして、このプログラムの導入が決まりました。
海外研修に実際に同行して感じたこと
(上原)現地で実際の問題に直面するという体験はなかなかないですよね。実際に同行して、どのようなことを感じたのでしょうか?
(井上先生)生徒たちは「課題解決」という視点よりも、「インドという未知の国を体験してみよう」という興味本位の部分が強く、意外にもバリよりも応募者が多い結果となりました。
しかし生徒たちの反応は、インドに到着した瞬間から劇的に変化していったのです。
空港でのバスの遅延、街中の野犬、交通ルールの無視などを目の当たりにし、最初は「ムリムリ」を連発する状況でした。そして徐々に現地の生活に慣れ始めた頃、スラム街を訪問したのです。
豊かな地域のすぐ隣に広がる貧困の現実に直面し、社会システムの複雑さに直面して絶望感を覚えた様子でした。
しかし、タイガーモブさんのスタッフが「誰を助けたいですか?誰に注目しますか?」と、具体的な” 人 ”に焦点を当てるアプローチを提案したことで、生徒たちの視点が変化したのです。
ストリートチルドレンなど、具体的な対象に向き合い始め、「ムリ」と言いながらも、自ら動き、インタビューし、最後は発表まで行う過程で、生徒たちの瞬間瞬間の成長と、果敢にチャレンジする姿がありました。
この経験から、適切な場さえ提供すれば、生徒たちは自ら学び、成長していく力を持っているということを改めて実感しました。
(上原)様々なモチベーションを持つ生徒たちが、最終的に自発的にインタビューを行い、プレゼンテーションまで完遂できたことは凄いことですね。どのような理由があったと思いますか?
(井上先生)見学した場所の多くは貧困地域で、その中で生徒たちは「自分たちに何ができるのか」を考え始めるようになりました。
現地で出会った子どもたちを見て、「自分でも何かしたい」という気持ちが自然と芽生えていく様子が分かりました。
それは私たちが意図的に導いた結果ではなく、様々な場所に連れて行く中で、生徒たち自身が課題を見つけ出したのです。それほど心が動かされる現場であり、言葉で説明するよりもはるかに効果的な学びとなったと思います。
海外研修での英語の心配やプログラム設計のポイント
(上原)プログラムの中で、生徒たちの心が動く瞬間があったということは大きな意味を持っていたと感じます。野田先生は引率されて、どのようなことを感じましたか?
(野田先生)当初は英語のレベルの高さを心配しましたが、タイガーモブさんのファシリテーターが高校生向けに分かりやすい内容からスタートし、参加者のレベルに合わせてプログラムをカスタマイズしてくれたため、英語でのハードルはほとんどありませんでした。
実際に参加して印象的だったのは、わずか11日間で生徒たちが涙を流して別れを惜しむほどの感動的な体験ができたことです。
日本の教育現場でこのような感動を生むには、非常に綿密なプログラム設計が必要ですが、タイガーモブさんはそれを見事に実現してくれました。
生徒たちの多くは、環境問題への興味というよりも、「楽しそう」「海外に行ってみたい」といった動機で参加した人が7-8割を占めていたと思われます。しかし、意識の高い参加者と共に活動する中で、「自分たちも変わらなければいけない」という意識が芽生え、普段なら決してできないような、苦手な英語で、見知らぬ人にインタビューするといったチャレンジも行うようになりました。
また、タイガーモブさんのプログラムの特徴として、環境問題だけでなく自己啓発的な要素も随所に組み込まれていました。例えば、日々の振り返りでグループメンバー同士が互いの良いところをポストイットに書いて伝え合うなどの活動があり、自己理解や人間関係の構築にも役立ちました。
このような経験は、生徒たちが大学生や社会人になった時に大きな財産となるはずです。それを実際に目の当たりにできたことで、このプログラムの素晴らしさを実感しました。
海外研修を通じての生徒たちの具体的な変化
(上原)プログラムの表のテーマは環境問題でしたが、裏テーマとして「自分の強みや才能を見つけよう」という自己探究の要素が組み込まれていました。プログラムを通じて自分の可能性を持ち帰ってもらうことも、このコースの重要なゴールの一つでしたが、生徒たちの変化や具体的な事例があれば教えていただけますか?
(野田先生)プログラム開始当初は、あまり積極的な参加が見られなかった生徒たちが、大きな変化を遂げているのを目の当たりにしました。
彼女たちはビーチのゴミ問題に取り組み、ゴミ箱の設置を提案したんですね。すると、設置したゴミ箱には大量のゴミが集まり、その分別作業も行いました。文句を言いながらも生き生きとゴミ分別に取り組む姿は印象的でした。日本では絶対にやらないような体験を、バリで実践することで小さな自信を得ていったようです。
こうした小さなチャレンジの積み重ねが、最終的には堂々としたプレゼンテーションへとつながったのだと思います。
大人から見れば些細なことでも、生徒たちにとっては非日常的な体験であり、それぞれが大きなチャレンジとなっていました。こうした経験の積み重ねがプログラムの中で活かされ、素晴らしい発表につながったのではないかと思います。
5校合同での海外研修のメリットとデメリット
(上原)今回は5校合同開催でしたが、合同開催してよかったこと、苦労したことを教えてください。
(野田先生)初年度のインドコース開催でしたので、当初は2、3人程度しか集まらないのではないかという心配がありました。そんな中で合同開催という提案があり、他校の参加者と合わせることで開催できる可能性が広がるというメリットを感じました。
実際に実施してみると、全員が同じ学校だと緊張感が薄れがちですが、他校の生徒との共同作業があることで、より真剣に取り組む姿勢が見られました。
短期間では学校の枠を超えられず、同じ学校の生徒同士で固まってしまうケースも見られましたが、最終的には一人一人が自分のタイミングで殻を破れば良いのだと考えるようになり、デメリットには感じませんでした。
(井上先生)実際に運営面での苦労はほとんどなく、むしろ予想以上の効果がありました。
プログラム終了後、9月の文化祭には他校の生徒たちも多く訪れ、他県の文化祭に参加する生徒もいるなど、学校の枠を超えた人間関係が広がっていきました。これは合同開催による予想外の良い効果だったと考えています。
海外研修や探究学習の今後の展開について
(上原)最後に、今後の展開について、海外研修の枠組みだけでなく、学校での探究の取り組みなども含めて、お考えをお聞かせいただきたいと思います。
(野田先生)今後はタイガーモブさんのプログラムをより多くの生徒に提供していきたいという考えを持っており、これは探究学習の必要性とも深く関連しています。
探究学習は実践の場であり、普段の授業で得た知識を実際に活用する機会だと考えています。探究活動はスポーツに似ていて、基礎練習だけでなく、実際の大会のような実践の場が必要です。探究活動を通じて、生徒たちは自分の可能性や課題を発見し、さらなる学習のモチベーションにつなげることができます。
社会に出た時に必要となる思考力や行動力は、まさにこうした探究活動で養われるものです。そのため、高校時代からこのような体験を数多く提供し、生徒の成長のステップとしていきたいと考えています。今後もこういった活動をさらに広げていく予定です。
(井上先生)野田先生と同じく、海外研修の機会をさらに増やしていきたいと考えています。
インドから帰国した生徒たちは、その後の文化祭準備で大きな変化を見せました。普段はあまり意見を出さない生徒たちが、積極的に発言するようになったのです。
生徒たちの言葉によると「あれだけ大変な場所で活動できたのだから、日本語が通じる自分たちの学校での課題に取り組むのは当たり前」という意識に変わっていったそうです。このような意識を持つ生徒をもっと増やしていきたいですね。
今の時代、成功への明確なマニュアルはありません。だからこそ、生徒たち自身が情報を集め、判断し、選択していく力が必要です。自分で選んだ方法で決断を下し、進んでいくことは、どのようなキャリアであってもプラスになるはずです。
不安定な世の中だからこそ、自分の足で立ち、自分で決めたことを実行していく力が必要不可欠です。高校生のうちにこうした自信をつけることができれば、その後の人生に大きな影響を与えることができるのではないでしょうか。
(上原)お二人とも、素敵なコメントをいただきありがとうございました!
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